2016年6月14日火曜日

伊勢志摩サミット秘話 各国首脳の移動にベンツが選ばれた理由とは…


産経新聞 6月14日(火)12時5分配信

 伊勢志摩サミット秘話 各国首脳の移動にベンツが選ばれた理由とは…
厳重な警戒の中、賢島に向かう英国のキャメロン首相を乗せた車列=5月25日午後、三重県志摩市(桐原正道撮影)(写真:産経新聞)
 首脳をはじめ各国の政府関係者やジャーナリストらが続々と来日した5月の「伊勢志摩サミット」。日本ブランドを世界にアピールするまたとない機会になったが、首脳らが現地を移動する際に使ったのは、トヨタ自動車などの国産車ではなく、独メルセデス・ベンツの高級車だった。ベンツが選ばれた理由とは…

 5月26日、三重県伊勢市。サミット最初の行事となった伊勢神宮訪問で、安倍晋三首相は内宮の入り口にかかる宇治橋のふもとに立ち、続々と車で乗り付けるG7首脳を出迎えた。

 ドイツはいうまでもなく、イギリスなら「ジャガー」「アストンマーティン」、フランスは「シトロエン」、イタリアは「マセラティ」と、G7各国は、そうそうたる自動車ブランドを自国に持つことで知られる。

 やはり、キャメロン英首相は映画「007」の主人公ジェームズ・ボンドと同じ「アストン」か-などと、記者も空想を膨らませて待っていたのだが、メルケル氏はもちろん、キャメロン氏もオランド仏大統領も、イタリアのレンツィ首相もベンツに乗って登場、期待は見事に裏切られた。

 唯一の例外が米国で、オバマ大統領だけ「キャデラック」の大型リムジンで現れた。

 米国は別にして、各国が自国車両を持ち込むのは難しいとしても、それなら日本のトヨタや日産自動車、ホンダでよかったのではとの思いが頭をよぎったが、そうではないらしい。

 ■マシンガンや地雷に対応

 サミット関係者によると、オバマ氏以外の首脳が乗っていたのはベンツの最上級モデル「Sクラス」の防弾車で、「S600 Guard」の名称を持つ。日本が議長国として用意し、伊勢志摩サミットのためにドイツから輸入されたという。

 国際会議などで首脳を乗せる車はテロや外部からの襲撃を想定し、防弾などで高い安全性能を確保していなくてはならない。

 S600 Guardは、見た目は通常のSクラスとほぼ同じだが、ドイツの「VR9」という最高レベルの安全基準をクリア。特殊鋼を使用した堅牢なボディー構造で、積層されたガラスもポリカーボネートでコーティングされており、マシンガンによる銃撃にも耐える。

 ジェームズ・ボンドの乗る“ボンドカー”さながらの装備で、車の底には特殊な外板が設置され、地雷など車両下の爆発物に対応。特殊タイヤは損傷しても30キロは走行でき、毒ガスや細菌攻撃を想定した換気システムもあるという。

 V12エンジンを搭載し、最高出力は530馬力で、最高速度は時速210キロを誇る。

 実は平成20年の北海道・洞爺湖サミットの際もベンツが輸入された。

 ■米大統領車は“野獣”

 一方、オバマ氏が乗っていたのは大統領専用車「キャデラック・ワン」。S600 Guardほどスピードは出ないが、「ビースト(野獣)」の名称で知られ、ロケット弾も耐える装甲を持つとされる。大統領がどちらに乗っているかわからないように絶えず2台で移動していた。

 対する日本だが、安倍首相は普段も使用しているトヨタの最高級モデル「レクサスLS」の特注車で移動した。詳しい性能は非公開であるものの、防弾車であるのは間違いない。

 また、各国首脳の随行員らもトヨタのロングセラーバン「ハイエース」を提供していた。

 サミット開催にあたり、議長国である日本政府は、各国首脳用にレクサスの防弾車を特注することも可能だったかもしれないが、価格なども考慮しつつ、海外の基準をクリアし、一定の量を効率的に用意できるベンツを選んだとみられる。

 実際、ベンツがS600 Guardだけでなく、スポーツ用多目的車(SUV)「Mクラス」の防弾車など多様なラインアップを用意し、世界各国の政府機関やVIPに販売を続けてきたのに対し、レクサスの防弾車は市販されていないからだ。

 日本は治安がいいからと言ったらそれまでだが、紛争地域やテロ対策などを考えれば、世界的には防弾車のニーズは少なくない。自動車メーカーにとっては性能や信頼性のアピールにもなり、独メーカーではベンツのほか、アウディやBMWも手がけているだけに、日本勢の出遅れが目立つ。

 ■自動運転も不発

 サミットでは、トヨタや日産、ホンダが自動運転車を披露し、日本の技術をアピールする機会も設けられた。ただ、カナダのトルドー首相らが試乗したのに対し、オバマ氏やメルケル氏らは欠席した。

 今回のサミットで、首相は中国の海洋進出に対する認識の共有や世界経済の成長に向けて各国が政策を総動員することなど、いくつかの成果を上げた。では、日本の自動車メーカーはといえば、「完勝」というわけにはいかなかったようだ。(田村龍彦)

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