2016年7月17日日曜日

効果があった・無駄だった「英語学習法」

社会人は、いつ、どのように学んでいるのか。アンケートをとったところ、「苦しいのは自分だけではない」と思わせてくれる結果がずらり。参考にしてほしい。

英語学習で最も重要なことは?

今回アンケートで、効果的な勉強法やムダだった勉強法について聞いた。さまざまな実体験が寄せられたが、ムダな勉強法として複数の人が挙げていたのが、「聞き流すだけの教材」(30代男性)だった。


(写真=PIXTA)
「リスニング力の習得には個人差があり、音だけで頭に入る人と、同時にスペルを見たほうが理解の深まる人がいます。前者なら聞くだけの教材も効果的ですが、たいていの大人は後者なので、聞くだけの教材では苦戦するでしょう」(TOEIC専門塾「英語屋」講師 古澤弘美氏)

前者の音に強い人でも、聞き流すだけではTOEICの点数アップにはつながりにくい。音をとらえることはできても、意味がわからないからだ。

「一語一語意識するには、聞いた内容を復唱するシャドーイングや、聞き取ったことを書きとるディクテーションが有効です。口や手を動かすことでリスニング力を効率的に高めることができます」

一方、勉強法として「ニュースはCNNを見ている」(30代女性)、「英字新聞を読んでいる。ビジネス英語の勉強になる」(40代男性)などの声も上がった。情報収集と英語学習を同時にできるのは、忙しいビジネスパーソンにとって魅力的だ。しかし、じつはそこに落とし穴が……。

「英語という道具がまだ磨かれていないのに、いきなり実用に使おうとすると、結局は使いこなせずに挫折します。英語ニュースは、800点台の力がないと厳しいでしょう。そもそも政治や国際情勢といった時事英語はTOEICに出ませんから、ニュースや新聞で勉強する際は注意が必要です」

同じことは、洋画や海外ドラマ、TEDのプレゼンテーションにもいえる。実用を兼ねてモチベーションを維持するにはいいが、TOEIC対策には向かない。「英語学習で重要なのは、愚直なまでの繰り返し」(古澤氏)。自分に合った教材を、いかに徹底的にやりこむか。その積み重ねが、点数アップにつながるのだ。

▼「学ぶ場・時間」BEST3

1位:電車内・車内 128人
コメント:通勤時を活用したいので、電車通勤できる場所に引っ越した(30代男性)/通勤時間中にリスニングをすると集中できる(30代男性)/公式問題集をコピーし、通勤電車内で読みまくった(30代女性)/通勤の往復3時間を勉強にあてている(30代男性)

2位:隙間時間 46人
コメント:子供の塾の待ち時間に問題集をやる(30代女性)/家族が風呂に入っている時間(40代男性)/昼休みにNHKラジオを聞いた後、e-learningを行う(50代女性)/トイレに問題集を置いた(50代男性)

3位:静かな場所 30人
コメント:家庭に勉強を持ちこまないようにするため、仕事帰りに図書館で勉強(30代女性)/ノイズキャンセリングヘッドホンで学習して、周囲の雑音に邪魔されないようにしている(50代男性)/耳栓をする(30代男性)

番外編:早朝出社で始業前に勉強(30代男性)/夕食後だと眠くなるので、帰宅後すぐ2時間勉強に切り替えた(50代男性)/夜は子供と一緒に21時台に寝て、朝4時に起きて勉強時間を確保している(30代女性)/自宅にいると誘惑が多いので、自分が集中できる場所(喫茶店や図書館など)で勉強するようになった(40代男性)

▼「学び方」BEST3

1位:リスニング学習 163人
コメント:iPodでCNNやBBCを聞いている(50代男性)/NHKラジオ講座を録音し、時間があるときに聞いている(40代男性)/単純作業の仕事のときには英語音声を聞く(50代男性)/海外の放送を視聴する。BGMを洋楽にする(30代男性)/TEX加藤氏の特急シリーズの無料ダウンロード(50代男性)

2位:周辺をすべて英語に 41人
コメント:携帯表示やナビ表示など、細かなところも英語表記に(40代女性)/家の壁や風呂にも英単語を張るなど、日常的に英語で考えたり読み書きする時間をつくる(30代女性)/自宅ではCNNテレビをつけっぱなし(50代男性)

3位:スマホ活用 23人
コメント:通勤時はスマホアプリで勉強(50代女性)/スマホでポッドキャストを聞けるようにした(30代女性)

3位:英会話学校 23人
コメント:skype英会話中、家族は別の部屋へ行ってくれる(50代男性)/TOEICを受けるときは先生に宣言し、恥ずかしいスコアを出さないよう追い込む(30代女性)

番外編:会社のデスクマットに英単語を書いた紙を入れ、仕事中にたまに見ている(30代女性)/意識の高い人と一緒にいるようにする(40代女性)/英語圏へのプライベートの旅行は、ツアーではなく個人旅行に。すべての局面を自分自身で切り抜けなくてはいけない状況をあえてつくる(50代男性)

【効果があった独自の勉強法】
●海外ドラマを吹き替え→字幕→そのままで3回見る(30代男性)
● 東京駅や新宿駅で迷っているような外国人旅行者を見つけたら積極的に声をかけ、電車の乗り方などを教えている(40代男性)
●3週間のセブ短期留学。朝から晩までひたすら英語を使う環境にいたことで、下手でも臆さずに話すようになった(30代男性)
●1日20個単語を覚えるよりも、毎日140個の単語を1週間継続して覚えるほうが定着しやすかった(40代男性)
●半身浴をしながら風呂でアプリで学習(30代男性)
●英英辞典拾い読み。英語のままでイメージできるようになった。訳さないようになりますね(50代男性)
●アプリのiKnow!は、ゲーム感覚でできて続けられた(30代女性)

【効果なし。無駄だった勉強法】
●日本語訳がすぐに見られるようなものはあまり効果がない。英語で考える癖をつけたいと思っているので(40代女性)
●英語のサークル活動。メンバーの発音が悪かった(30代女性)
●英語の小説。自分で訳した日本語が正しいのかどうかわからない(40代男性)
●アメリカ映画で学ぶ英語。略語やスラングが多く、ビジネスやフォーマルな場面ではあまり役立ちそうになかった(30代男性)
●聞き流すだけの教材。当時は英語の基礎ができていなかったため、1年使っても、ほとんど英語力の向上にはならなかった(30代男性)
●DSの英語学習ソフト。声を出すフェーズがあって、電車の中で勉強できない(50代男性)
●通信教育。期限にせかされて、習熟しない(30代男性)

TOEIC点数大幅UPに成功した「私の勉強法」

――VOAで超安上がり・勉強法
濱口達史さん●大手電機メーカー社員

大学院生だった2006年、米国に留学しようとしたら、TOEFLのCBTで250点、TOEIC換算で900点クリアが入学の条件でした。TOEICの無料模試サイトで腕試しをすると600点弱。しかも出願期限は1カ月後です。さらに学生でお金もなく、安上がりな勉強しかできません。

心がけたのは音読。発音できない英語は、頭に入らないからです。単語集は『TOEFLテスト英単語3800』に絞り、毎日100~200語を声に出して覚えました。同時に、前日覚えたのに忘れた単語もチェックし、復習しました。記憶が新しいうちに再度刷り込み、2~3日ですべて暗記できました。

リスニングでは、VOA(米国営放送局)の外国人向け英語放送「Special English」を活用しました。サイトから音源とスクリプト(台本)を無料でダウンロード。朗読を聞いた直後、台本を読みながら復唱するシャドーイングを繰り返しました。英語は日本語とは逆で、修飾語が関係代名詞の後に来ます。音読していると、そうした構文に頭が慣れ、読解の速度も上がります。

1カ月後のTOEFLの結果は257点。09年には実際のTOEICを受けて、935点をマークしました。

――好きな洋書の完全読破・勉強法
白石真由さん●高卒OL

私は高校を卒業した後、契約社員として事務の仕事に就きました。しかし、20歳を過ぎてからは、転職して正社員になることを考え始めました。すると英語力を求める求人が多く、TOEICに挑戦することにしたわけです。

まず、買ってきた問題集を開いたのですが、私には難しすぎて単語も文法もわかりません。1回目のテストの際には勘でシートをチェックしたこともあって、結果は340点前後でした。その後、CD付きの3行の英会話の本を丸暗記したり、NHKのラジオ英会話での英会話中心の勉強に切り替えて、500点台まで伸びました。そこでTOEIC単語集やリスニング問題集などでの勉強へ移行したものの、600点台で足踏み状態になってしまいます。

そして、TOEICの勉強に嫌気がさした私はテキスト類を片付けて、好きだったダニエル・スティールさんの恋愛小説や『ダ・ヴィンチ・コード』などの洋書を読み始めました。わからない単語があると、徹底的に調べました。

すると、1年後のテストで820点へ、最終的に840点まで伸びました。洋書の多読でリーディング力だけでなく、自然と正しい文法も身に付いていったのだと思います。

――シャドーイングで感覚アップ・勉強法
嬉野克也さん●コールセンター会社社員

2012年3月に905点、14年2月には970点のスコアを取ったのですが、英語の勉強を始めたのは36歳になってから。30歳を過ぎても英語は身に付くという記事を読み、「自分でもやってみよう」と思い立ったんです。

最初の2カ月間は猛勉強し、10年3月に受けたTOEICの得点は645点。オンライン英会話の「レアジョブ」も活用し、11年5月には890点までスコアが上がりました。ところが、900点の壁がなかなか越えられません。そこで、音読に取り組みました。目で「読む」、耳で「聞く」だけでなく、口で「話す」ようにもすれば、五感がよく使われ、英語が覚えやすくなるからです。

メーンの教材は『TOEIC公式問題集』と『新TOEICテスト990点攻略』。リスニングでは、聞いた音声を自分でも発声するシャドーイングを行い、英語の発音に対する感覚を研ぎ澄ませました。リーディングでは量をこなし、長文にひたすら慣れました。

また、わからない単語や文法はすぐに調べて苦手を克服していきました。ストップウオッチを片手に問題を解き、解答のスピードを上げる訓練もしました。すると、今まで全問に答えられなかったのが、答えられるようになったのです。


――難解発音フレーズ抜き書き・勉強法
大里秀介さん●サッポロビール 経営戦略部マネージャー

もともと英語は苦手で、1998年に新入社員研修で受けたTOEICのスコアは390点。でも、2006年に30歳になったとき、社内の海外研修制度に手を挙げたら、選考基準がTOEIC650点で、それを契機に勉強を始めました。

しかし、08年1月に825点を取ってからはスコアが伸び悩みました。そして、ネットで知り合ったTOEIC講師のアドバイスで、リスニングが不正確なのが要因と気づかされました。

ネーティブは話すスピードが速く、何といっているのか、日本人にはなかなか聴き取れません。そこで、文章とそれを朗読した音声を対照させて音読し、セットで覚えました。

また『TOEIC公式問題集』で、聴き取れない短文があるとノートに抜き書きして、何度も音読して覚えました。さらに、公式問題集から120の会話パターンを選んで音読し、丸暗記することで、リスニングでは満点も取れるようになりました。

一方、リーディングでは、『1日1分レッスン! 新TOEIC TEST千本ノック』にある全172問を10分で解けるようになるまで、何度も繰り返しました。その結果、11年6月に990点をマークできたのです。

2016年7月2日土曜日

池上彰氏の凄さと限界

池上氏関連のホッテントリがここ数日あがってたので、自分の思うところを書いてみる。
自分は一応、新卒で池上氏と同じ業界に就職(といっても、自分は紙媒体)し、記者という肩書をもらっていた経験がある。
7年ほど現場にいて、体壊して、ちょっと内勤の管理部門にいさせてもらったのだが、なんか、内側から会社を見ているうちにもともと、あんまり向いていなかったかな?と思っていた業界がさらに嫌になって転職して10年ちょっとになる。

普通、あの業界では、最初の何年か地方で修行して、いずれ東京や大阪に戻ってくるパターンが多いが、自分の就職先は、いわゆる経済紙で(ってもう社名明かしたようなもんだが)地方支局が貧弱な会社だった故、新卒が地方支局に行くという制度がなく、入社から退社まで東京で過ごした。


池上氏の凄さは、なんといっても、情報を取捨選択してわかりやすく伝えるプレゼン能力と、守備範囲の広さだと思う。
で、あれだけのことを伝えられるには、背後に相当の知識があるのであろうと思われている。
その「相当」がどの程度なのか、というと、たぶん、世間一般の人が想像するよりは、かなり浅くて、
けっこうぎりぎりのラインでしゃべっているのではないか、という気がする。それでももちろん、かなりのレベルではあるだろうが。
いわゆる大手のメディア企業の記者にまず最初に求められるのは、
「昨日聞きかじったばかりのことを、あたかも以前から詳しく知っているかのようにしゃべったり書いたりする能力」である。
なにしろ、日々、いろんなことが起こるのだ。
なかなか深堀している暇などない。
そうこうして、キャリアを積んでいくうちに、それぞれの専門分野ができていくわけだが、
大半の人は、きちっと専門分野を確立する前に、デスクや管理職になったりして、だんだんと現場から離れていく。
記者職としてキャリアを全うする人(編集委員とか論説委員とか解説委員とか)は少数派だ。

池上氏の経歴を見ると、NHKで地方局や通信部を回った後、東京の社会部で気象庁や文部省、宮内庁などを担当した、とある。
まあ社会部記者として一般的なコースという感じだ。
東京では、悪名高き日本の「記者クラブ」に所属し、最優遇される立場で、役人から懇切丁寧なレクを受けて、
それをニュース原稿に仕上げるのが、まず最初の基本的な仕事だったと推測する。
NHKの記者は特に、「特ダネ」を取ってくることよりも、「報道されるべき情報を落とさない」ことをなにより求められるらしいので、
多分、想像以上に、定例記者会見に出席したり、資料をチェックしたり、他社の報道を確認したり、
思いのほかルーティーンワークが多いのではないかと推測される。
(なお、NHKスペシャルなどのドキュメンタリー番組は、主にディレクター職の人が担当しているので、
一つのテーマを深くじっくり追いかけるのは、あまり記者の仕事ではないらしい。
実は自分もNスぺ作りたくてディレクターを第一志望にしてNHK受けたのだが、見事に落ちた)


で、そんなに知識が深くなくても記者が務まるのかといえば、そこそこ務まる。
自分は、そのさして長くない記者のキャリアの大半を、メーカーを中心とした企業の取材で過ごしたのだが、
正直、最初は、「貸方」「借方」もよくわかってなかった。(大学は政治学選考だったし)

それでも、入門書片手に勉強しながら記事書いて何とかなっていたし、
そもそも「大手メディアの記者」が企業の広報部を訪ねると、結構いろいろ懇切丁寧に教えてくれるのである。
そりゃ、変な記事書かれたくないからね。
多分、NHKの記者というのも、それなりの対応を受けるはずである。
もちろん、伝えてほしいことは積極的かつ懇切丁寧に伝え、触れられたくないことは隠しながら、だが。
中には、「たいてい経験の浅い若手が担当する企業」というのがあって、そういう会社の古参の広報さんの中には
「今、編集委員の何々さんねえ、あの人が新人のころ、私がいろいろ教えてあげたものだよ、わっはっは」なんて言ってたりした。
もし、あなたの会社の広報部に、なんだか大学出たての記者ばっかりくるようだったら、
それは、メディアから軽んじられている証拠である。

もちろん、教わってばっかりでは舐められるので、こっちも勉強していくわけだが、
何しろこちらは早いと一年で担当が変わってしまうが、
相手はその会社一筋なわけで、知識の深さでは、敵わないのが通常だ。
知識を深めるのは、そこそこにしておいて、知らなくてもはったりかませる胆力をつけたほうが役に立つ。
そうこうしているうちに、正面から取材を申し込んだり、正規の記者会見に出席したり、
ニュースリリースを原稿に仕立て上げているばっかりでは通り一遍の記事しか書けず、
社内的にもマイナス点はつかないものの、プラス点がつけられることもないので、
独自に夜討ち朝駆け(アポなしで取材対象のところに押しかける)したり、独自ルート作ったりし始めるのである。
そんなことをしているうちに、自分のような、結局途中で業界を去ってしまうような木っ端記者でも、
ごくごくたまには、取材担当企業の株価をストップ安にしちゃうような記事を書くチャンスが巡ってくることもある。

まあでも、ぶっちゃけいえば、そこそこキャリアを積んでいる先輩の中でも
減価償却費が資金繰りにどういう影響を与えるのかよくわかっていないまま、
それでも企業の経営危機について記事を書いているような人はざらにいた。
(まあ、自分も経験積みながらようやくわかるようになったクチで、
当初はなんのことやらわからなかったのだから、偉そうなことは言えないが)
それでも、首にはなりはしない。


そういえば、思い出したことがある。
今の若い人にほ想像もつかないだろうが、その昔、世界のエレクトロニクス業界をリードし、
今でいえばappleと同じくらいのブランド力で各種製品を生み出していたSONYという会社があった(今もある)。
当時はまだまだ、かつての威光が残っていた。
自分は、そこのメイン担当になるほどの能力もキャリアもなかったが、
たまたま、SONYの会社が取り組んでいる内容が、自分の取材テーマに関わっていたことがあって
取材を申し込んだことがある。
いわゆるストレートニュースではなくて、連載コラムのような記事を書くためである。
で、SONYに行ってみて驚いた。
美人広報さんが、それまでの取材で見たことないような、
膨大でかつ、非常にわかりやすくまとまった資料をお持ち帰り用に用意していたのである。
なんかもう、取材しなくても、この資料テキトーにまとめたら記事書けちゃいそうな。
もちろん、そんな手抜き仕事をして相手の思うツボにはまってはいかんので、
きちんと担当者さんに話を聞いて、自分なりの記事を書いてみたのだが、
やっぱり資料に引きずられなかったかといえば、影響はあったわけで、
まあ、恐ろしい会社であった。
かつて「メイド・イン・ジャパン」の強さの象徴として流布されたSONY伝説は、
もちろん実力の部分もあったけれど、伝説を伝説たらしめようという広報戦略によって
かさを増されていた側面も多かったというのは、そこそこ業界で有名な話である。
なんだか、大分、話がそれた。


多分、池上氏は、NHKでそこそこの社会部記者だったのだろうと思われる。
そんな彼の経歴の中で異彩を放っているのは、そろそろ管理職か専門記者か、という分岐点にさしかかったあたりで
キャスターに転身し、その後10年以上にわたって「週刊こどもニュース」を担当していたことだろう。
(すごい優秀な記者と認められていたら、ここいらで、海外支局あたりで経験つんでいるはずである)
そこそこの取材経験を積んだ後で、
「衆議院と参議院って、どう違うのですか?」とか「比例代表制ってなんですか?」とか、
「どうして輸出が中心の企業は、円高ドル安になると困るんですか?」とか
あらためて、そういうレベルからニュースを解説する仕事を10年以上も続けたジャーナリストは、
少なくとも今の日本では皆無に等しいんではなかろうか?


普通、そこそこキャリアを積んだ記者は、あらためてそんな仕事をしたがらないし、
そもそも、そんなレベルことは、真っ当な社会人ならば学校で習っているはず、というのが日本社会の建前で、
読者や視聴者を、そんなこともわからないヤツらと想定して記事や番組を作っていたら、
ある意味、「お客様をバカにしている」ことにもなりかねない(と、みんな考えていたのだろうと思う)。
まあ実際、そのレベルで作ってみたら、予想以上に受けたわけだが。

「こども向け」の番組というフォーマットを得ることで、池上氏はそういう稀有な仕事を追及していった。
その結果、得たのが、あのたぐいまれなるプレゼン能力だと思うのだ。
多分、池上氏程度の知識や取材能力をもった記者は、NHKや全国紙にはゴロゴロしていると思う。
(自分のかつての勤め先でも、そこそこキャリアがあって、東京でそれなりに仕事している先輩は、皆さんそれなりに凄かった)
でも、その知識や取材結果を子供にわかるレベルでよどみなくしゃべれる人は、そうはいない。

池上氏のニュース解説番組をたまに拝見すると、自然災害のメカニズムから、最新の科学上の発見、日本の選挙から世界経済まで
あらゆる森羅万象を斬っておられるようである。
だが、自分が見る限り、その解説は一般紙や新書本で得られる知見を超えるものはほとんど見ない。
「いや、それは、視聴者に分かりやすいレベルにしているからで、その背後には物凄い知識が・・・」という見方もあるが、
果たしてどうだろうか?
多分、毎日6紙読むという新聞をベースに、ひたすら横に広くいろいろな情報を取り入れておられるように見える。
海外取材などの映像を見ることもあるが、どうも、テレビ局とコーディネータによるセッティングが透けて見えてしょうがない。
多分、その経歴からいっても、海外取材に独自のルートなどはそんなにお持ちではなさそうだ。
やはり、「あまり深くないレベルで次々とあらゆる分野に取り組んでいく」ことがこの人の真骨頂だと思う。
それが悪い、ということではなくて、それがこなせる凄さがある、ということである。

著書を読んでも(といっても、ほんの数冊目を通しただけだが)、たとえば同じNHK出身の元ワシントン支局長の手島龍一氏とか、
あるいは日経の元スター記者で週刊ニュース新書の田勢康弘氏の著書のような、深い取材と鋭い洞察に支えられた
凄みのようなものは感じられない。
そのかわり、入門書としてのわかりやすさはピカイチだ。
やはり、この人の存在価値は「広く入門レベルの知識を提供する」以上でも以下でもないのだろうと思う。
(なお、今、軽く検索してみたらどうやらニュース英語の本まで出されているようだが、
膨大な著書のどこまでご自分で書かれているのだろうか?という疑問は置いておく。
出版業界では、驚くほど「著者が適当にしゃべったことを編集者やライターがまとめた本」というのが、世間で思われている以上に多い。
あと、池上氏が英語を話しているところって、あんまり見たことないような。
NHKの採用試験を突破するくらいだから、読むことに関しては、そこそこのレベルと推察できるが)



さらに、分かりやすさの理由の一つとして、「子供のような素朴な疑問にも正面から取り組む」というのがあるように思う。
巷間よくいわれる、選挙特番の「池上無双」の象徴ともいわれる「創価学会の話題」についても、
タブーへの果敢な挑戦というより、素朴な疑問を追求していった結果なのかもしれない。
「どうして自民党は公明党と組んでいるんですか?」という質問は、大人はあんまりしない。
それは何となくタブーであると感じているせいでもあるが、一方で「そりゃ、理由はみんな知っている」からである。
ましてや、「政治記者歴何十年」を売りにするような政治ジャーナリスト諸氏は、
そんなことよりも、自分の掴んできた独自情報を話したくて仕方なかろう。

だが、池上氏はそういう疑問をスルーしたりしない。
「それは、公明党には創価学会という支持母体があって、固定票が見込めるからですよ」と優しく語りかけるのだ。
で、「では、公明党と創価学会の本部がある信濃町に行ってみましょう!」と、女子アナを連れてツアーを組んだりする。
実際、やってみれば、放送しちゃいけないタブーというほどのこともない。
そりゃそうだ。
ある程度、日本の政治に関心を持っている人ならば、普通に知っていることなのだから。

公明党の側だって、連立与党として大臣まで出す立場になった以上、その程度の取材を拒否するはずもなく、
ちゃんと「公式な答え」だって用意している。

だから、池上氏が
「創価学会の人たちが、選挙は功徳だなんていう仏教用語を使っていたりしますが、政教分離の観点からみて
問題があると思われませんか?」と質問しても、
「創価学会は、大切な支持団体ではありますが、創価学会と公明党は全く別個の組織です。
政教分離というのは、政府が宗教活動を行ったり、宗教活動に介入したり、宗教団体が政治に介入することを禁じておりますが
宗教団体が政党を支持することを禁じるものではなく、現在の公明党と創価学会の関係は問題と思っておりませんが云々」
といった、きちっと理論武装した答えしか返ってこない。

「そうはおっしゃいますけれども、ここに創価学会の名誉会長が、公明党に指示した文書がありましてね・・・」
などと、爆弾情報でもぶっこんで来たら、それは多少「タブーに斬り込んだ」ことになるだろうが、
そこまでのことはしない。
多分、そこまでの取材もしていないと思う。そもそもが、そういう役割の人ではなくて、そこは、
政治を専門する別のジャーナリストの役割だろう。
池上氏はただ、意味ありげに
「はい、そうですか、よくわかりました」と視線を投げかけるという、
きわめてテレビのキャスター的な技術を見せるのみだ。

で、こう考えてみると、やはり池上氏の凄さでは
「子供にも分かるように語ること」「子供の持つような素朴な疑問をゆるがせにしないこと」
を常に追求し実践してきた所にあるように思われる。
これは、なかなかに難しい。
多分、そこには、「相手(子供)が、何がわかって何がわからないのか」を推察する想像力や共感力と
「限られた言葉で複雑なことを説明する」ことを可能にする、優れた言語能力が必要なのではないかと思っている。
ただし、限られた言葉で語りえることは、やはり、ある程度、限られているわけで、
その辺が、池上氏の限界ではないかと考えている。