2011年8月22日月曜日

なぜ高校生は日本の国境書けないのか


【安藤慶太が斬る】
 7月31日の産経新聞で青年経済人や若手経営者が加盟する「日本青年会議所(日本JC)」が全国の高校生約400人に日本の国境を描かせる調査を行ったところ、正解できた生徒は全体の2%にも満たなかったという話をニュースを報じている。
  •  ご記憶の方もおられるかもしれない。調査は7月上旬から行われ、高校生に千島、樺太と北方四島、日本海、東シナ海(南方)の3つの地図を示して日本の国境を実際に書かせるというものだ。
 その結果、南方の国境の正答率は26・3%の105人。北方の国境は正解者59人(14・8%)で、日本海の国境を正解したのは37人(9・3%)。全問正解者はわずか7人(1・8%)だった。自信満々に答えた生徒は少なく、択捉島や与那国島がわからない生徒や竹島と鬱陵島を取り違える生徒や対馬すら識別できない生徒が続出。「習っていません」と答えた生徒も目立った-というものだ。
■すぐに横やりが入る領土教育
 報道後、「これは超難問ですよ」という反応を聞いた。「結果自体はそう意外な気がしない。そんなもんでしょ」という声も聞いた。なかには「国会議員にやってくれ」「『習ってません』と答えた生徒の声を報じるのは産経新聞らしい恣意(しい)的な報道だ」というものもあったらしい。
 どうだろう。本来、まともな国民教育が行われている国家ならば、この手の領土教育は程度の差はあれ、学校でも行われ、国民の常識として定着しているだろうと考える。学校が教える必要がないくらいに親が教えているという場合だってあるのかもしれないが。
 ところで日本の場合はどうだろう。ちなみに私は小学校から高校を卒業するまで一度として教師から国境を確かめるような授業を受けた記憶がない。竹島に関する指導を学習指導要領に入れようとするだけで、韓国が反発して日本にさまざま働きかけてくる。日韓議員連盟の国会議員らが彼らの意を忖度(そんたく)してか、あれこれ動いていつのまにか学習指導要領に入れるはずの話が、解説書に盛り込むかどうか、といった話になっていたりする。それがごく最近まで何度も何度も繰り返されてきたのである。
■領土に関する教科書記述
 教科書だってそうである。領土問題について日本の立場をきちんと明記した教科書はどれだけあるのだろう。
 例えば教育出版の記述を見ると、《日本海に位置する竹島(島根県)については、日本と韓国の間にその領有をめぐって主張に相違があり、未解決の問題になっています。また、東シナ海に位置する尖閣諸島(沖縄県)については、中国もその領有を主張しています》とある。
 うーん。日本の領土と書いていないわけじゃないが「日本と韓国の間にその領有をめぐって主張に相違があり、未解決の問題になっています」というひとごとのような書きぶりで済ますのでいいのか、と感じる。いわゆる両論併記を装ってはいるが、わが国の立場である「わが国固有の領土であり、不法占拠されている」とは書かないのである。
 帝国書院はどうか。《歯舞諸島・色丹島・国後島・択捉島は、明治時代から、日本の領土として国際的に認められてきました。しかし、第二次世界大戦後にソ連が占領してから60年以上、これらの島々ではソ連、そしてロシアの支配が続いています》
 これも間違いとはいわない。それまで住んでいた家や土地を奪われ、今も返還運動に取り組む同胞の心の叫びや痛みはわれわれが語り継がねばならない問題のはずだ。この両社の記述に共通するのは、どちらも冷淡でひとごとのような書きぶりであるということである。
■自国の立場を教えるのは「自己中心的」か
 一方、自由社を見ると、《わが国には、領土に関して、北方領土問題竹島問題、尖閣諸島問題という三つの重大な領土問題があります。いずれも、歴史的にも国際法的にもわが国固有の領土ですが、近隣諸国が不法に占拠したり、不当に領有を主張したりして紛争となっています》
 育鵬社はどうか。《日本も近隣諸国との間で領土問題をかかえています。歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の北方領土、日本海上の竹島は、それぞれロシア韓国がその領有を主張し、支配しています。また、東シナ海上の尖閣諸島については、台湾と中国がその領有を主張しています。しかし、これらの領土は歴史的にも国際法上も、日本の固有の領土です》とある。比べてみると違いは一目瞭然だろう。
 こういう記述が最近、ようやくできるようになってきたのだ。この2社の教科書について左翼の方々は「自己中心的な見方に終始している」などと盛んに批判を浴びせる。そういう主張をうのみにしているメディアもあれば、採択に携わる教育委員も真に受けていることすらある。
 だが、それってとてもヘンな話だ。わが国が自国の考えや見解、立場を将来の担い手である児童生徒たちに教えるのは至極当然の話で、周囲にはばかる必要など何もないはずだ。自国の立場を教科書に書くときは周辺国や他国の立場も必ず添える。なぜこんな“セット販売”が義務づけられなければならないのか。
■自国の立場を教えなくていいか
 要するに左翼の口車にのって、あるいは韓国との軋轢(あつれき)に腰砕けになって「自己中心的だから」といいながら「自己」をきちんと教えなくなっている。それが実態であって、その方がよっぽど非教育的な状況だということだ。
 国旗や国歌もそうである。来春から中学校で使われる帝国書院はこう記述している。
 《国民の自覚を高めるために用いられるものに世界各国の国旗と国歌があります。ほかの国々の国旗と国歌を尊重することは現代世界の礼儀となっています》
 東京書籍はどうか。
 《主権国家は、国家を示すシンボルとして、国旗と国歌を持っています。日本では、1999年に法律で『日章旗』が国旗、『君が代』が国歌と定められました。国どうしが尊重し合うために、たがいに国旗・国歌を大切にしていかなければなりません》
 国旗や国歌を尊重することが大切だ、とは書いてあるが、児童生徒が「わが国」の国旗や国歌を尊重して大切にしていかなければならないとは明記しないのである。こうした記述に書き手の意図が潜んでいる。全国の教育委員は読み解けているのだろうか、甚だ怪しいもんである。
■朝日のいう自制って何だ
 日本の国会議員が竹島をめぐり、鬱陵島に視察に行こうとして韓国に入国拒否された事件があった。
 朝日新聞は社説で「領土問題は、簡単に解決できるものではない。短兵急にことを構えず、事態をこじらせぬよう、自制した大人の対応が双方に求められる」と書いていた。
 国会議員の行動を「(議員は)領土や歴史認識の問題で、韓国中国に厳しい態度をとる人たちである。(中略)これでは、領土問題の解決に資するような展望も戦略も持たないまま、騒ぎを巻き起こすだけのパフォーマンスとみられても仕方あるまい」として「ここはまず、刺激しあうことを避け、悪循環にこれ以上はまらぬよう自制すべきだ」「解決への効果も期待できない行動を強行することが『毅然(きぜん)とした外交』ではないし、自制は『弱腰』ではない」といった具合で論じている。
 ざっとこんな調子である。朝日新聞のいう、弱腰ではない自制の方針って何だろう。結局、何もしない、何も主張しないということではないのだろうか。一体、領土問題の解決にどんな展望と戦略を朝日新聞は持っているのだろうか。まさか竹島韓国に譲ってあげる秘策が領土問題の解決策ということなのか。
■朝日の社説は大人だったか
 視察に向かった国会議員について「領土や歴史認識の問題で韓国中国に厳しい態度をとる人たちである」と断じている。これもおかしな表記である。
 日本の政治家が(のみならず国民も)国益を踏まえて日本の立場を示すために中国韓国のみならず外国に厳しい態度を取ることは当然あるだろう。まさか朝日は厳しい態度を取ってはいけないとでもいうつもりなのだろうか。
 また「騒ぎを巻き起こすだけのパフォーマンスとみられても仕方あるまい」と付しているのだが、騒いでいるのは韓国であって、日本の国会議員ではない。自制すべきは韓国であって双方ではない。事態をこじらせない自制した大人の社説が求められるのは朝日新聞だと考える。
 厳しい態度を取ることは当然あると書いたついでにいえば、むしろ、今の日本の外交問題は外国の首脳クラスとの会談時に、いうべきことを言わない政治家が多すぎるということだ。それがもたらす外交上の害悪の方がよっぽど問題である。竹島もそう。韓国民主党政権の動向を見ていると、民主党政権はなめられているし、相手にされていないように思えてならない。
■わが国を尊重させまいとする態度
 教科書も新聞もこういう書きぶりがまだ散見するくらいだから、教育委員の認識にだけそう多くは期待できないのかもしれない。
 ただ、自分の住む国に領土問題があれば、国民として自国の主張や論点をきちんと知っておく。そんなことは自然になされるべきことであろう。間髪入れずに「自分の国ばかりでなくて他国の立場も尊重すべきだ」とすぐに難癖をつけてくる空気の方が要注意だということだ。
 新聞にせよ教科書記述にせよ、結局はいつも相対化してしまって自国を尊重させまいとしているからである。
■時間の経過とともに国民意識がむしばまれていく
 冒頭、日本JCの調査について述べた。日本の高校生がほとんど国境を描けない。なぜ、そうなるのかについて考えてきた。国境についてわが国の子供たちが日本の公教育の現場で教わろうにも、学校にはさまざまな仕掛けがあり、教育の機会が摘み取られてしまっているのである。
 記事では、高校生だけでなく、大人も満足に描けないとあった。もはやそういう教育を受けてきた子供たちがすでに大人になっているのである。20年、30年と続けば、徐々に社会は麻痺(まひ)してくる。
 まず、領土について、自分の立場を毅然と主張することをはばかるのが当たり前になってくる。例えば民主党の岡田克也幹事長。外相時代、国会答弁で何度促されても断固として竹島について「韓国に不法占拠されている」とは言わなかった。彼は、そういうことを口にするのは対立をあおることだ、だから口にすべきでないと堅く信じているのだろう。
 ロシアの閣僚が民主党政権の足元を見て北方領土に行っても、国民的な怒りが沸騰することすらない。どちらも時間とともに関心そのものが薄れているのだ。それが社会がむしばまれていくひとつの兆しだ。
 日本JCの調査結果も同じである。決して好ましいことではない。そういう異常が続けば、犠牲になるのは子供たちである。領土を正しく認識できなければ、考えることも、まして主張することすらできないからである。
(安藤慶太社会部編集委員)

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